1.テクニカルイラストレーションとは何?
どういうものを『テクニカルイラスト』と呼ぶのでしょうか。
ここでは、テクニカルイラストとは「イラスト自体の事」、テクニカルイラストレーションとは「そのイラストを描く行為の事」ととらえています。ご了承ください。
テクニカルイラストには狭義と広義の解釈があると考えています。
■テクニカルイラストの狭義の解釈
狭義の解釈とは、元々テクニカルイラストはアメリカの軍事産業が発祥とされています。
例えば戦闘機を組み立てるのに、図面も読めない作業者に作業指示しても理解できないことが問題となっていました。
そこで考えられたのが、イラストにして組立て手順などを周知することでした。
ただ、そのイラストも作成者の技量によってまちまちでは問題も起こりますし、どうせなら今後ずっと使用したいと考えるのが人間だと思います。
ならばと言うことで、テクニカルイラスト(アイソメ図)の理論が考えられたのではないかと考えます。
つまり、この背景から考えると狭義では「機械や電気製品など、図面を見なくてもその構成部品や組立・分解方法などを説明するイラスト」と言うことになります。
このようなテクニカルイラスト(アイソメ図)を「拡散分解図」などと呼びます。
~拡散分解図例1~
また、内部を断面にして構造を表した「立体断面図」などというものもあります。
~立体断面図例~
この狭義のテクニカルイラストレーションについて、『テクニカルイラストレーション技能検定試験』という国家検定試験があります。
国が定めた130余りのものづくりのための技能を厚生労働省が認定しようと言うものです。
試験と言うからには、技能を推し量るのに、何の根拠も無い状態ではできません。
『テクニカルイラストレーション技能検定試験』では、等測投影法という方法で、製品の製造に使用される紙図面を読み解いて、寸法に忠実にイラストを描いていきます。
いくらイラストがうまくても、リアルに描けても、軸測投影法に則っていないイラストでは合格はできません。
なお、当サイトの「Illustratorでテクニカルイラストレーション」のコーナーでは、この軸測投影表に基づく描き方を紹介しています。
ぜひご参考になさって、テクニカルイラストレーション技能検定試験に挑戦してみてください。
2.パーツリスト(パーツカタログ)とは何?
パーツリスト(パーツカタログ)という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
パーツリスト(パーツカタログ)とはその製品がどのような部品でできているのか、部品全て(時にはアセンブリ)を分解して、個々の部品がどこに付くかを関連線(連絡線)によって表したものです。
そうです。これが前出の「拡散分解図」(テクニカルイラスト)にあたります。
この「拡散分解図」とそれに対応した部品リストのセットがパーツリスト(パーツカタログ)と呼ばれ、部品管理や部品注文に対応するための資料となります。
また、サービスマンが現場で部品の交換をする場合にはサービスリストという分解/組立てのための説明書を使用する場合がありますが、その場合にもパーツリスト(パーツカタログ)を参考にしたりする事もあります。
~パーツリスト(パーツカタログ)具体例~
Key |
部品番号 |
部品名称 |
個数 |
1 |
RC05-0100 |
パッキン |
1 |
2 |
RA16-01093 |
六角ボルト |
8 |
3 |
AC12-01011 |
空気抜きフタ |
1 |
4 |
AC12-01009 |
空気抜き本体 |
1 |
5 |
AC12-01008 |
ナット |
1 |
6 |
RA16-01055 |
割りピン |
2 |
... |
... |
... |
... |
上図では画面の関係でイラストとリストが上下になっていますが、通常、A4の冊子で左ページにテクニカルイラスト、右ページに部品表などの構成になっています。
もちろん上図はサンプルですのでリスト部分は省略しており、もっと多くの情報を掲載しているのが普通です。
例えば、英名・材質・色・提供部品メーカー・価格などです。
現在では冊子として提供するケースも少なくなっているようで、インターネット経由でパソコンやタブレットから閲覧できるようにするのが一般的のようです。
冊子ですと印刷コストや輸送コストがかなりかかってきますが、インターネット経由であれば修正や変更もすぐに出来てしまい、コスト的にもかなり軽減できます。
その1世代前ではCDに焼いて送付していた次代もありましたが、現在のパソコン事情ではDVDやCDプレイヤーの付いていないパソコンも多く出回っていますし、タブレットではなおさら付いていません。
そのためCDに焼いていた次代はすぐにインターネットに替わってしまいました。
パーツリスト(パーツカタログ)はいろいろな機械で使用されますが、車や大型機械などでは、数百ページの上記のようなテクニカルイラスト&リストが使用されます。
これを1人で制作していたのでは、期間的に間に合わない事は容易に想像できるでしょう。
そのため複数人で制作する事になりますが、自由奔放なイラストレーターが複数人集まったのでは、ページごとに作風の違うものが出来てしまいます。
これでは困ってしまいますので、前述したような軸測投影法により、規則が決まった描き方で、複数人で描いても後々合成ができるようにするのです。
さて、それではテクニカルイラストレーターは図面がないとどうしようもないのでしょうか?
テクニカルイラストレーターは図面が無い場合でも、『現物を計測して、その寸法を元に描く』、『写真と説明のみで描く等の方法でイラストを描く』事があります。
●現物を計測して、その寸法を元に描く
『現物を計測して、その寸法を元に描く』とはあくまでも図面を貸し出せない/図面自体が無い等の理由で、現物しか無い場合に対応する描き方です。
現物を借りて、自分で分解しながら寸法を測り、それを元にテクニカルイラストにしていきます。
この場合は分解する技術も必要ですし、分解用の工具なども必要になります。
問題なのが、最後に組み立てられなくなる場合があるのと部品を破損してしまう事ですか...私もありました。
●写真と説明のみでイラストを描く場合のテクニカルイラストレーション
時々ありますが、やはり図面を貸し出せない/図面自体が無い等の理由で現物しか無い場合で、かつ大きすぎて持って帰れないような場合の対応です。
軸測投影法を理解したうえでテクニカルイラスト(アイソメ図)で描く技術があり、写真と部品の組立て順のみ知らされて描いていくのです。
写真を探すところから始まり、イラストを描いては他の写真で形状が違っていたなど、行ったり来たりの作業になりますので手間がかかります。
3.写真トレースとは何?
■テクニカルイラストの広義の解釈
今までは狭義のテクニカルイラストについて書いてきましたが、ここからはもう少し広げて、説明図として使用されるイラストはテクニカルイラストであるという解釈です。
皆さんは、写真トレースという言葉を聞いたことがあるでしょうか。
少し前まで、取扱説明書に写真を貼り付けて説明に使用していましたが、写真では見えるものすべてが写ってしまうため説明には適さない場合もあります。
また、一昔前のプリンターではコピーすると写真がはっきり写し取れず、汚くなってしまうなどの話を聞きました。 そこで写真に写っている機械や製品の外形をトレースするという方法が取られるようになりました。
このように写真をトレースしてイラストにする方法は、現在(2019.08)も頻繁に行われています。
人間楽したいと思うものだと思いますが、自動で写真をトレースできないかという考え方は昔からありました。
しかし、写真に写りこんだ被写体はあくまで画像であり、自動で線画にする場合、コンピューターが直線なのか曲線なのか、その線は必要なのかどうか等を判断しなければなりません。
人間なら簡単に判断できますが、AIが進化して人間レベルの判断力を持たないと難しいのかなとも思います。
逆にそれが出来てしまいますと、イラストレーターは必要ないということで仕事を失うことになります...良し悪しですね。
さて、写真をトレースすると、それは全て「透視投影図」というものになります。
●透視投影図
パース(パースペクティブ)という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
まだ建っていないマンションの広告などで実物っぽく描かれたイラストは、ほぼ間違い無く透視投影図(パースペクティブ)が用いられています。
まあ、最近ではイラストとして描くより3Dソフトを用いて作成するほうが主流のようです。
広告の場合、見る人にいかにイメージしてもらうかが問題なので、写真で撮ったようなイラストが必要になるのです。
実は、マンションのような大きな物を軸測投影法で描くと、透視投影法とは逆に遠くの方が広がって大きく見えてしまうと言う錯覚が起きます。
これは私見ですが、多分人間が潜在的に遠いものは小さいはずだと思っているのに、軸側投影法で描かれたイラストは近くも遠くも同じ尺度で描かれているため、よりいっそう遠くが大きく見えてしまうのではないかと思います。
透視図には以下の3種類があります。
①.1消点透視図(1点透視投影図)
よく見かけるのがマンションの間取りを説明する為に、マンションの内部を真上から奥行きを見せて描かれたイラストです。
②.2消点透視図(2点透視投影図)
③.3消点透視図(3点透視投影図)
主にマンションの外観パースなどを描くときに用いられているようです。
2消点透視図、3消点透視図のサンプルはお待ちください。
手描きの時代には2消点透視図の方が簡単なので、たぶんこちらが主に用いられていたのではないかと思いますが、今現在は3Dの時代です。
普通にモデリングして表示させると、多くの場合、透視投影図は3消点透視図になりますので、こちらが主流かとも思います。
まあ建築パース専用のモデラーがあるのであれば選択できるのかな?
もちろん、機械系でも特に装置のような大きなものは透視投影法によってかかれる場合があります。
しかし、パーツリスト(パーツカタログ)向きではないのが、ここまで読んでいただいた皆さんにも想像できると思います...そうです、遠くの小さな部品は全て点になってしまいますね。
下図がそれぞれの考え方のポイントです。
~1消点透視図~
上図で、本当は平行である線ですが、パースではその線を延長していったと仮定した線(上図では二点鎖線で表している線)が、先の1点で交わります。これを消失点(消点)と言います。
1消点透視図は消失点が1つ、2消点透視図は消失点が2つ、3消点透視図は消失点が3つという事です。
必ず、現物で平行な線は消点で交わるように描かないと、ひしゃげたようなイラストになってしまいます。
上図で平行と書かれた線はどこまでいっても平行線になります。これは軸測投影法と同じ考え方です。
軸測投影法においても前述しました広がってしまう錯覚を避けるために、奥行方向を透視投影法を応用して描く場合があります。
しかし、正確にパースを描くとなると手間がかかりますので、私などはおおまかに消点のみ意識して、あとはある程度で描いてしまいます。
4.その他のテクニカルイラストレーションの現状
■3Dデータの活用
近年ではメーカーの設計は3Dに移行しており、3Dデータを利用して分解図や取扱説明書用のテクニカルイラストにする事が頻繁に行われるようになりました。
方法としては、3Dデータを3DCADなどで2次元化してDXF等に変換してイラストにする方法です。
もちろん考え方として3Dの画像を出力して取扱説明書などに貼り付けるという方法も考えられます...これならコストカットになりますね。
しかし、これは写真を貼り付けるのと同じ問題が発生します...余計な画像も一緒に写りこんでしまいます。 三次元を二次元に変換する場合、3Dに存在する形状の稜線をすべて二次元に変換しますので、必要の無い線も多数出力されます。
例えば面と面が接した部分を2次元のテクニカルイラストにすると、両方の稜線を線画にしてしまいますので線画重なって出力されます。
場合によっては数十本の線が重なるなどと言うこともあります。
この線を1本にするため不要線を削除するのにかかる時間は膨大なもので、コストカットのためそのままで良いとするメーカーも多く存在します。
しかし、これすごく汚くなります...特に大きな機械のイラストの場合部品も多くなりますので線の数が膨大。
出力したイラストをA4サイズの用紙に印刷すると...真っ黒です。 しかも、ネジ等の小さな部品は黒い点になってしまいます。
まあ、考え方なのでとやかく言えませんが...。 例えば下図の様な1つの部品があるとします。
左が3Dから出力した2次元テクニカルイラストで、右が少し手を入れてきれいに見えるよう簡略化したテクニカルイラストです。
右のテクニカルイラストレであれば小さくしても明瞭になりますが、左のそれは小さくなると結構黒くなってしまいます。
こういう所を直してあげたいと思ってしまうのがテクニカルイラストレーターなのでしょうが、今時は不要ということが多くなってしまいました。
ところで、テクニカルイラストレーションという観点から考えてみますと、上記方法、つまり3Dデータを3DCADなどで2次元化してイラストにする方法ですが、何か変ではないでしょうか?
そう、テクニカルイラストを描くという行為はどこにも存在しないのです。
できたイラストはテクニカルイラストでしょうが、描く行為は3Dソフトが担当します...テクニカルイラストレーターは必要ないですね?
もちろん、テクニカルイラストとはどういう物かを知らないとレイアウト等の作成段階で行き詰ることが多発すると思いますが...。
■リアルイラストレーション
リアルリアストとは、見る人の目を引き付けるいわゆるカラーイラストで、質感などをリアルに表現したイラストです。
もちろん構造の説明に使用したりもするため、これもテクニカルイラストと呼べるのではないかと思います。
私自身がリアルイラストを描くことがほとんど無いため、とりあえず3Dデータをレンダリングしたものをサンプルとして掲載しておきます。
しかし、それこそリアルイラストは写真ではだめなのかというところで、この種のイラストを得意としている人たちの間ではなかなか難しい課題もあるようです。