手書き時代のテクニカルイラストレーション


1994年に前職を辞し、興味のあった特許図面について調べるにあたりテクニカルイラストレーションを知りました。

機械工学科卒でしたのでドラフター(製図器)を使用していた経緯もあり、あまり抵抗もなく手書きのテクニカルイラストレーションを通信教育で勉強しました。




ドラフター自体は妹がパートか何かで使用したいというので譲ってしまっており、無い懐から机上で使用するタイプのドラフター(アーム式)を購入して勉強したものです。






上の写真はトラック式と呼ばれるものです。

ドラフター(製図器)写真を見ていただくと判るように左手で握るハンドルがあり、ここに水平方向に長い定規、垂直方向に短い定規が付いています。

製図板の上と左にレールがあり上下左右(斜めにも)にハンドルを移動させることができます。、

ハンドルはある角度でカチカチと止まるようになっているので、アイソメ角度の30°とか簡単に正確に角度を出せるのです。

残念ながら私の使用していたドラフターの定規は標準尺でしたので、寸法を測るには別途アイソメ尺を用いる必要がありました。

まあ、ドラフター用のアイソメスケールがあったかどうかは不明ですが...。


アイソメスケールとは以下の様なもので、一方のスケールは標準尺(一般的な物差し)でもう一方はアイソメ尺となっています。




私の使用していたアーム式というのはレールがなく、以下の様な構造となっています。


トラック式に比べて割安でした。



このドラフターにトレーシングペーパーを貼って、シャーペンで下書きをします。

トレーシングペーパーを貼るのに、昔は製図テープ(紙製か何かで粘着力があまり強くないテープ。粘着力が強いと剥がすときにトレーシングペーパーが破けるのです。)で貼っていましたが、この頃には既に金属板で貼っていました。

製図板自体が磁石になっていて、薄い金属板が張り付くのです。




よく軽率に貯金通帳とか製図台の上に置いて磁気部分が読み取れなくなってしまってい、通帳再発行をやっていました。




ドラフターが登場するまでは、私は使用した事が無いですが製図板とT定規の組合せでした。


 




製図板を机上に水平に置き、側面の縁にT定規の短い板を滑らせるようにすることで、その短い板と直角に伸びた板が製図板の横方向の水平線となります。

この長い方の板の上に三角定規を置いて角度線を引くわけです。





直線は製図台と三角定規で描けますが楕円は楕円定規(楕円テンプレート)を使用します。


 




 




パソコンで描くようになって楕円は簡単に拡大/縮小して作れますが、手書きではそうはいかずに必要な大きさの楕円をテンプレートから探して書きます。

もちろん楕円の大きさを全てまかなえる訳もなく、近似の大きさの楕円を使用する事もあります。

35°16′楕円テンプレート以外にも、当然楕円度(楕円のつぶれ具合)の異なる物があります。





上は私が使っていたものの一部で、楕円度がそれぞれ異なるのがわかると思います。




下は現在、日本ビジュアルコミュニケーション協会で取り扱っているテンプレートです。







球を書く場合は円定規を使用します。




しかし、実務では意外と球形というのは無いですね。





アイソメ面上に書く楕円は35°16′楕円になりますが、角度が付いている面では違う楕円度の楕円を書くことになります。

その場合、その角度の付いた面上の楕円度がわからないと書けませんよね。

そこで使用する道具が楕円分度器というものです。






こちらは日本ビジュアルコミュニケーション協会(JAVC)御用達だったタニー商会さんの物です。




残念ながら先年廃業されてしまいましたので、日本ビジュアルコミュニケーション協会事務局に2~30枚残っている物が最後となっています。


使用方法の一例ですが、以下の様な図形の斜面に穴が開いているとして、楕円角度と楕円の短軸の方向がわかりませんよね。




この図形の斜面が現れるのが三面図では側面図です。

そこで、側面図であるY面に赤で示すような補助線を引き、その中心にY面の向きにして楕円分度器を当てます。

斜面の角度は斜め左下を向いていますので、その角度を楕円分度器で確認してそこから左回りに90°図ります。それが水色の直線です。

水色の直線がこの面の法線方向になり、その付近に書いてある50°楕円がこの面上の楕円という事です。

従いまして、50°楕円の短軸方向を水色の直線に合わせれば良いという事になります。


この楕円分度器はIllustratorで書いたものですのでちぢみ率を付けませんでしたが、実際の写真には赤字で数字が書いてありこれがそれぞれの方向のちぢみ率です。

その方向に穴が開いていれば、その深さは実際の長さにちぢみ率を掛けて算出します。

一例ですが、このように使用します。

実物には他の情報も入れられていて、アイソメ作図の知恵が満載の道具でした。





手書き時代のテクニカルイラストレーションでは、トレーシングペーパーにシャーペン等で下書きをしていきます。

下書きの後はロットリングペン(インクペン)で仕上げのトレースをします。

手書き時代には、トレースを本業とした方々が多くいらっしゃいました。

その方々のための技能検定試験が、テクニカルイラストレーション技能検定・仕上げ作業と言います。

もちろん手書き時代は終焉ですので、技能検定試験に現在はこの作業は無く、作図作業のみになっています。

ロットリングペンとは以下の様な物です。




黒いボトルに補充用のインクが入っています。まあ、万年筆の様な事です。

複数本あるのは、ラインウェイトを付けるためにペン先の太さが異なる物です。





皆さんは以下の道具が何だかわかるでしょうか。




これは“字消し板”というものです。

シャーペンでの下書き時に、不要な線は消しゴムで消すわけですが、細かい部分は必要な線まで消してしまう事もあります。

その様な事を防ぐために、この字消し板の穴をうまく使って不要部分のみを消すわけです。




手書き時代にはこの様な多くの道具を駆使してテクニカルイラストレーションを行っていました。

中には、テンプレートを製図板に置くと張り付いてしまいなかなか取れなくなってしまうのを防ぐために、自作でテンプレート立てを作って使用していた方もいらっしゃいました。



皆さん少しでも早くきれいに描くために工夫していたのです...。

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